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家に帰りたい

ある90歳近い一人暮らしのおばあちゃんが癌になり、私たちがご自宅へ訪問することになりました。義理の妹さんが近くに住んでいて、時々家に来られてお世話をされていました。しばらくはご機嫌で暮らしておられましたが、足が弱って家の中でふらつくようになりました。

お一人で生活するのは、転倒するリスクがあるので、危ないと言うことになり、さっそく千里ペインクリニックの上にあるケアリビングアマニカスにご入居されました。ここなら安心、すぐそばに看護師やヘルパーが常にいます。食事も出てきます。後かたづけもする必要がありません。人生の最期は、ここが理想!と言っていたおばあちゃんですが、しばらくすると、ふさぎ込むようになりました。どうしたんですか?と聞くと、「私はここで何をしているんでしょう?」と言われます。「何をって言われても・・・」「家に帰りたいです」「でも、足も弱って一人暮らしはとても危ないし、義理の妹さんに迷惑かけたくないって言われてたじゃないですか?」「ここでは何もすることがないです。家に帰りたいです。」そう言われて、何日も私たちを困らせました。結局、家に戻られることになり、また私たちはご自宅への訪問を始めました。

以前は、とても不安そうでしたが、今回はとても生き生きとうれしそうでした。日常のちょっとしたことがすべて「生きる」ことの意味だったのです。ずっと独身で一人で生きてきたおばあちゃんが選んだ道は、やっぱり一人で気楽に?日常を送ることでした。しかし、義理の妹さんは、気楽では決してなく、日々弱っていかれる病状に大変びくびくしながら、一生懸命介護されていました。弱っていかれても、点滴はせず、痛みは痛み止めを使い、次第に寝ている時間も多くなりました。

本当に最期が近くなって、苦しいと言い出されたとき、義理の妹さんはこれ以上家で見れないと言われ、再度、アマニカスに入居されることとなりました。アマニカスでは、薬を使って鎮静をしましたが、とてもすやすやと安らかに眠られ、数日後、そのまま天国に羽ばたかれました。とっても満足されたお顔だったと思います。

一生の締めくくりはいつも大変だと感じます。「自分の家で行うなにげないちょっとしたことが生きるということ」本当に心に響きました。最期までなにげなく生活でき、苦痛なくこの世を終わることができたら最高ですね。おばあちゃんの最期は、とてもすばらしい人生の最期でした。

千里ペイン 松永美佳子